通勤列車連載5
僕が見つめる視線の先で、彼女の肌がゾクリとあわだつ。螺旋を駆け上がる音楽が、彼女の首を這い上がって頬を大胆に染めてゆく。息が上がる、睫毛を伏せる、こぼれるような光の中で、彼の視線がその輪郭を犯した。音の洪水に飲み込まれ、女が息を吸い込んだ瞬間、両目の瞼が切れ上がり、男は腹から睨まれた。僕は息ができなくなった。ひとつも指を触れぬまま、二人は一瞬共鳴していた。
通勤列車連載4
つららから次々落ちる水が、落ちた瞬間空に上がって、逆流する雨のように、反射する光の粒みたいに、彼女の肌で踊っている。降り続ける高音が彼女の耳を弾いた。僕は目の端で見ていた彼女を、瞳の真ん中に持ってきた。軽いのに厚みのある低音がして その細い肩を包んでいく。転がるようなリズムで音楽が跳躍すると、途端にまた高音の雨が降って、彼女の睫毛が濡れだした。僕が見つめる視線の先で、
(充電無いのでここでやむ無し)
通勤列車連載1
25歳男子。女性経験一人。顔は可もなく不可もなく、なぜか目尻の睫毛が長いのでいつも少し寂しそうに見える。電車の中で恋をした。触れたこともない恋だった。
彼女は玉葱を背負っていた。黒いワンピースに藍色のカーディガン、石のようなイヤリングは深い金魚鉢の苔色で、髪毛をグシャっと結い上げている。小綺麗な顔立ちをしているのに、アンバランスな人だった。いつも川崎で乗ってくる。朝一の通勤列車なのに、夕方みたいな雰囲気の人だった。