通勤列車連載5

   僕が見つめる視線の先で、彼女の肌がゾクリとあわだつ。螺旋を駆け上がる音楽が、彼女の首を這い上がって頬を大胆に染めてゆく。息が上がる、睫毛を伏せる、こぼれるような光の中で、彼の視線がその輪郭を犯した。音の洪水に飲み込まれ、女が息を吸い込んだ瞬間、両目の瞼が切れ上がり、男は腹から睨まれた。僕は息ができなくなった。ひとつも指を触れぬまま、二人は一瞬共鳴していた。

通勤列車連載4


   つららから次々落ちる水が、落ちた瞬間空に上がって、逆流する雨のように、反射する光の粒みたいに、彼女の肌で踊っている。降り続ける高音が彼女の耳を弾いた。僕は目の端で見ていた彼女を、瞳の真ん中に持ってきた。軽いのに厚みのある低音がして その細い肩を包んでいく。転がるようなリズムで音楽が跳躍すると、途端にまた高音の雨が降って、彼女の睫毛が濡れだした。僕が見つめる視線の先で、
(充電無いのでここでやむ無し)

通勤列車連載3


   その耳の先の三角が、人より少し尖っているので、蝶の片羽みたいだった。その中心には確かに穴があり、彼は胃カメラするみたいに、きれいな耳の底が見える気がした。耳から入って、底は心臓のあたりだろうか。ちょうちょがきらきら光って見えて、そのまま齧り付きたくなった。あたたかいのに青白い彼女の、うなじに視線を移したとたん、ラ・カンパネラが落っこちた。膨よかで冷たい光の粒が、彼女の上に降 ってくるーーー。

通勤列車連載2

   

   市場だろうか。肩にかけたトートバッグから玉葱の袋詰めがのぞいている。ガタンゴトンという音に混じって、青々しい新鮮な匂いがする。世間はポジティブ思考が流行りで、”朝活”なんて言葉とともに「きちんと起きて洒落た料理をするスタイリッシュな生活」がSNSに溢れているが、彼女からそんな雰囲気はなかった。ただ新鮮さと、角度によって藍色に見える耳飾りがきれいだった。

通勤列車連載1

 
   25歳男子。女性経験一人。顔は可もなく不可もなく、なぜか目尻の睫毛が長いのでいつも少し寂しそうに見える。電車の中で恋をした。触れたこともない恋だった。

   彼女は玉葱を背負っていた。黒いワンピースに藍色のカーディガン、石のようなイヤリングは深い金魚鉢の苔色で、髪毛をグシャっと結い上げている。小綺麗な顔立ちをしているのに、アンバランスな人だった。いつも川崎で乗ってくる。朝一の通勤列車なのに、夕方みたいな雰囲気の人だった。

通勤中の暇つぶし

  

鎌倉から日本橋まで、平日は片道1時間強欠かさず列車に乗っている。この時間を活用して、一日ひとつ、連続性を持った文章を投稿してみることにした。わたしは絶対三日坊主なので、良くて5日というところだが、後先考えずやってみる。自己満足の域を一歩でも出れたら御の字。

ルールはふたつ。時間内に締め切る。後から直さない。
※今日のように終電の場合は、日付が変わっていても前日の投稿とする。 

#通勤列車連載