通勤列車連載15

   例えば、バーカウンターに並べられた色とりどりのアルコールの瓶を、少しずつ削って硝子と液体の中間のような小さな光の球にする。それを頭上のランプから垂らして、一つずつ音をつけてゆくように、トロイメライは静かに店内を漂っていた。それらは色の白い雪の頬をかすかに照らしながら、彼女の悲しみに優しく降り積もってゆく。直弥は、この音楽が美しいのは雪がここにいるからなのか、一人でいたって身に染みるのかどちらだろうと考えて、直後にどちらでもいいのでやめた。彼にとっての真実は、いま雪がここにいることだった。「俺は林直弥といいます」、静かな声で、はっきりと話しかける。