通勤列車連載14

   幸い、彼らの他には壁際のテーブル席に若い男女がいるだけだった。まだ学生の気配が残って、2.3日徹夜しても肌のキメ一つ乱れないだろう。羨ましいな、雪は思った。マイノリティ同士の恋愛の多くが、男女間のそれよりシビアに美しさが求められる風潮があるからだ。老いて外見が劣化すると、そのまま比例して相手が見つからなくなってゆく。雪がカウンターの端に腰掛け、直弥がその隣に座った。すぐに会話が始まるでもなく、引き続き雪は男女を見ている。自分の5年後を憂い、同時に自分のこれまでを諦めるような、切ない雪だけの視線があった。彼は目尻だけで泣いていた。そこから一滴の涙も落とすことなく、かすかに瞬きを繰り返す。バーにはトロイメライが流れていた。これほどまでに悲しくてきれいな横顔を、直弥は今まで見たことも無かった。ただ歳を取ることにだけでない恐怖が、雪の足元を濡らしている。