通勤列車連載1

 
   25歳男子。女性経験一人。顔は可もなく不可もなく、なぜか目尻の睫毛が長いのでいつも少し寂しそうに見える。電車の中で恋をした。触れたこともない恋だった。

   彼女は玉葱を背負っていた。黒いワンピースに藍色のカーディガン、石のようなイヤリングは深い金魚鉢の苔色で、髪毛をグシャっと結い上げている。小綺麗な顔立ちをしているのに、アンバランスな人だった。いつも川崎で乗ってくる。朝一の通勤列車なのに、夕方みたいな雰囲気の人だった。