通勤列車連載11

   直弥は酔いどれた先輩に付き合って、初めて二丁目を歩いていた。手近なバーで酒を引っ掛け、小一時間すると先輩が30回目の同じ不満を垂れ始めた。うんざりしながら目を覗き込むと、もう焦点が合っていない。半分白目でくだを巻き、恐らく手遅れだろう出世街道への野望を語る。直弥は虚しくなってきた。何が楽しくて相槌を打ち続けねばならないのか。先輩の首がガクンと落ちた。もう辞めだ。直弥は彼を放ったらかして、夜の二丁目に逃げ出した。

   夜風が頬に気持ちよかった。落ち着いてきて、なんだかゆっくり歩きたくなる。ネオンが光り、時折すれ違う男に値踏みをされて、けれど居心地悪くはなかった。なんだか僕の知らない世界だ。直弥は明日、おそらく今日となんら変わらず定時で出社するだろう自分が、遠い別人のように思えた。