通勤列車連載10

   雪は女の子が好きだ。柔らかくって守ってあげたい。けども雪の心の中の、一番深くて暗いところに、今も両親の言葉がある。「なんで男を好きにならんね!!」東北訛りでドラ低い声の、父の言葉が今も消せない。この街で男に抱かれたら、(その人がたとえ性別によらず恋愛できる人であっても)少なくとも生物上の交配規則は破っていない。だから雪は男に会って、表面だけでもはみ出さない関係を結びたかった。後にはいつも、自分の性質を思い知って夕方みたいに切なくなるのに、それでも懲りずに繰り返す。たくさんの溝を体系化した白黒つかないグレーの中で、雪が今晩選んだのは、直弥という会社員だった。