通勤列車連載6

   どうしよう、と僕は思った。人の意識の届かぬところで、僕は君に触れていたし、そこに抵抗の余地はなくて、受け入れるしこ術のない君は君は腹の底から怒っていた。まるで万有引力のように、二人は引き合って生きていた。重力に逆らって立っているには、互いが不可欠だというように。たとえ砂漠と海底にいたって、それは変わらなかっただろう。少なくとも僕の身体ができた25年間と彼女の身体ができた何十年間(彼女は僕より数年年上のはずだ)、絶えず変わらぬことだった。今朝の列車でたまたま出会い、溢れ出す音の泡の中で、僕らは溶けて共鳴し合った。あの時触った君の腰を(僕の想像が撫でた輪郭を)、忘れることはないだろう。