通勤列車連載7

    たとえば指先、君の腰骨。物事に命は宿るのに、命の説明は物事ではできない。ややこしい世界に生きている。魅力的だ。明日も会いたい。彼はすっかり乗り過ごした。人波に押されて彼女は降りた。品川だった。小一時間ほど遅れたせいで、職場ではガミガミ怒られた。デスクで企画書を書きながら、彼の頭に鍋が浮かんだ。彼女はきっと、ことこと玉葱を煮込むだろう。彼にはなぜかそれが分かる。また明日の朝会えたなら、あめ色になったか聞きたいと思った(彼女はまったく、それをあめ色にしたはずだ)。気づけは5時をとうに回って、彼は今日上げるはずの書類が何一つ終わっていないことに驚いた。定時まであと20分、グシャグシャな資料を右留めし、「とりあえずBOX」に突っ込んでゆく。この箱はパンドラ状態で、明日こそ絶対開けねばならない。じりじり先延ばしにしてきたツケが、自分の首を締め上げている。

   喉が渇いて、自販機へ向かった。また一日が暮れようとしている。夕陽がひたひた街を濡らして、山の向こうへ引いていった。

   窓の外は藍色に染まり、僕は物事の隙間を見ている。